なんかやたらと寒いと思えば、昼頃に雪が降っていました。四月なのに。
……これがエイプリルフールだったら、どれだけ楽だったんだろう……寒いのは嫌いです。というか、今年は天気が本当におかしすぎる気が……。
さて、そんな話はおいておくとして……今日は昨日の最後に言ったとおり、『アナザーデイズ』の続きを書きます。相変わらず事前に書いて見直しせず、いつものブログ感覚で書いているので見直すと悲惨なこと請け合いです(←じゃあ事前に書け)。忙しくなると、ホントに書けるときに書いて見直してアップ、という流れになりそうですが。
旅をしている彼は、本人でも嫌になるくらい試練があった。このご時世に一人旅するようなふざけた人間、そうそう居ないのでいろいろあって当然だが。
バッグの中に必要な物だけを詰め込み、生きるための知恵を頭に入れ……相手を打ち負かすような力を、考え方を、体に刷り込んで。そうして、一人で旅を続けてきた。
そのため、今回のような地崩れに遭うなんてことは割といつものことだった(これくらい大変な目に遭った、という意味で)が、これほどのピンチに陥ることはそうそう無かった。普段から注意して行動しているため、それは悪い偶然と言わざるを得ないだろう。
……そして。
「俺らのアジトに連れてこられる人間って、こいつのことか?」
「一人で旅してたんだとよ。ガキのくせに、変なヤローだぜ」
「そうか? 俺はこんくらい変わったヤツの方がおもしろいけどな」
「つーか、こいつどうすんの? 今晩の食事?」
「ダメだよ、ボクから見ても、こいつは灰汁が強すぎてとても食えそうにない」
とても楽しそうな談笑がコールを取り囲んでいるが……その会話をしている人たち。洞窟を人が住めそうな環境に加工し、ところどころが破れたような、どこか普通じゃない服装の人がそれなりに居るこの環境……つまるところ、山賊のアジトに連行されて、取り囲まれるような経験は、一度もなかった。
コールにしても、賊に襲われたことくらいはある。そのたびに彼は知略とちょっとした力を駆使して、その人を倒してきた。とはいえ、いくらなんでも今回は度が過ぎている。
周りを見れば割と厳つい顔つきの男だらけ。唯一、コールの治療したあげくボロボロの椅子(その辺の木材を使って作った結果だそうだ)に座らせて見せ物にしようとしているスノーだけは、子供であり中性的な顔立ちも相まって非常に浮いている存在だった。
「……それで、僕をどうするつもり? 言っておくけど、持ち物はそこのバッグだけだから」
身の危険を考え、とりあえず率直な疑問を投げかける。スノーは自分を助けると言ったが、この環境では説得力に欠ける。しかし、事実コールは治療を受けているし、彼の座る椅子の側に、いつものバッグもある。山賊なら、このバッグを持ち逃げされても文句は言えないのに。
その質問に、スノーは当然とばかりに答えた。
「や、だから助けるためだって。ボクがコールを助けたときも言ったじゃん? ボクが助けなかったら危なかったって。あ、でも助けたから当然、金目の物はいただくよ? まぁ、何を貰うかは後で相談ってことで」
「……助けてもらった身としては、むしろ何か恩を返すべきだけど……それ、山賊としてどうなの?」
「まぁ、その辺は後でボスが説明するかな? ボクが気まぐれで助けちゃったわけだし、ボスに話しても割と乗り気だったから、その辺の話は丸投げってことで」
そういって両手を組み、自分はもう部外者ですとばかりに後ろに下がっていくスノー。そして、「ボス、あとよろしく」となにやら後ろの方に向かって手を挙げていた。それに「お前もちったぁ説明しやがれ」と、乱暴だが軽い口調で声が返ってくる。
そのとき、ようやく足音が一つ、この部屋(ここ自体、洞窟内の一室)に入ってくる音が聞こえた。スノーはボスという人が入ってくるのがわかったから、あのタイミングで引いたのかもしれない。注意を欠いていたとはいえ、コールは足音に気づけていなかった。
足音が止まると同時、目の前の山賊たちの人だかりが左右に割れる。その先に、一人の男性が立っていた。
自信満々な笑みと男らしく深い顔つき。左目には黒い眼帯をし、紅い髪を短く切りそろえた男だった。彼が担ぐようにしているのは、パッと見て二メートルくらいあるバトルアックス。それを抱えるだけの体躯と身長は、いかにも集団を率いるボスの風格だ。
男はコールに近寄ると、男らしい笑みをより強めた。
「そんなに警戒すんじゃねぇよ。別に殺そうってわけじゃねぇんだ」
「……そんな斧を持ってこられても、説得力がないよ」
「賊が丸腰でどうするってんだ? それとも、俺が武器持ってなかったら心を許すのか?」
「少なくとも、素手の相手だったら逃げる算段くらいはできるからな。そんな武器持ってると、逃げる気無くても逃げたくなる」
「どっちにしろ逃げる気満々じゃねぇか」
「そりゃ、ここに居る全員倒せる力もなければ、長居したくなるような状況でもないからな」
言い切った直後、ボスと名乗る男は大笑いを始めた。豪快で、けれどどこか暖かく感じるような、そんな笑い声だった。
「あはははは! お前、この状況でよくもまぁそんなこと平然と言えるもんだ! 普通、俺らに囲まれたら怖がっておびえてるもんだぜ?」
「残念だけど、旅を続けてたら慣れてくるんだよ、こういうこと。怯えなんて見せたら思うつぼ。さすがに敬語くらいは使うだろうけどね。……ま、どうせ今の僕は身動き取れないから、普通なら助かる見込みはゼロ。だったら敬語使ったりする意味なんて無い。それがわかってるからこう話してるんだよ。こんな話し方だと、相手を怒らせるだけだろ?」
「そりゃそうだ。そこらの山賊どもにこんなこと言ったら、今頃首が飛んでるぜ?」
「そうなる前に手を打っているよ。または、そんな山賊相手だったらなにも言わない方が得策」
ちなみに、今の答え方はコールにとって素の言葉である。相手を考えて言葉を選ぶことはできるが、この状況ではどうにもならないので反感を買いそうな言葉でも普通に使っていた。
その受け答えが良かったのだろうか。ボスを名乗る男は満足そうに頷いた。
「ということは、俺らをそんなに警戒してねぇって捉えていいんだな?」
「今更、警戒もなにも無いだろ? というか、スノーが僕を助けてくれた段階で、どう対応するか考えるのも面倒になったくらいだ」
警戒していない、といえば嘘になる。だが、わざわざ助ける理由が山賊には無い以上、とりあえず最悪の事態にはならないだろう、という結論を出していた。
「ま、怯えてねぇってわかればありがてぇ。俺はグレー。ここのボスだ。お前は?」
「コール・リオーサ。旅の途中だよ」
「そっか。コール、当分は怪我で動けねぇだろうから、しばらくはここに居ればいいさ。もちろん、宿代と治療費は払って貰うぜ?」
「……ここを出るときには僕、無一文になってるんだろうな」
下手すると、そこら辺の賊に狙われるよりやっかいかもしれない。
「まぁ、そのときはそのときだ。で、俺らがお前を助けてやるんだから、当然俺らのことを他に知らせるような真似だけはすんじゃねぇぞ? 義賊っつっても、山賊に代わりはねぇんだ」
「……義賊だったのか、あんたら」
「……おいスノー。なにも伝えて無かったのかテメェ」
一睨みするグレーの視線から、スノーは視線を逸らしていた。本当に丸投げである。
その視線に耐えかねて、スノーは睨み返して抵抗。
「だって、ボクがそういうの苦手だって知ってるじゃないか!」
「うるせぇよ! 道理でこいつの反応がやけにとげとげしい訳じゃねぇか!」
「うっ……でも、ボクが変なこと言って間違えられても困るし。学なんてないし」
「ここに居るのはそんなヤツばっかりじゃねぇか! それに、俺らだってそこそこ教えてるだろ?」
「主に、武器の使い方と賊の襲い方と食料の調達方法と変装の仕方と悪人の懲らしめ方ね」
「…………いや、まぁ、賊だしな。それ以外、基本は要らないしな」
コールを除く全員が大笑いしていた。グレーはそれに「うるせぇ! お前らだってそれしか教えてねぇだろ!」とか言っている。
そこで、グレーはふと思いついたように「そうだ」という。
「なぁコール……お前、旅をしているからにはそれなりに学、あるだろ?」
「……学、というか……僕の旅の目的自体、いろんなことを学んで本にすることだからな。それなりには」
「十分。なにせスノーのやつ、戦い方やら身の回りのことしか知らないで、文字も書けないわけだ。丁度良いから教えてやってくれねぇか?」
「えー! 勉強したくない!」
「……なるほど、確かに勉強させた方が良さそうだ。その代わり宿代は安くしてくれ」
「さて、どうするか……まぁ、それも話し合いだな」
「こらー! ボクを無視して二人で話を進めるな!」
……このやりとりの後、いつの間にかこの山賊団のお世話になることが決定していたことに、なんで気づけなかったのかと悔やむコールが居たりした。そして、なんかすごく嫌な目でコールを睨むスノーの視線が異常に痛かった。
だけど、悪い気はしなかった。一人旅を続けていたせいだろうか? ここの人たちが世間から離れているとしても、その暖かさが、なぜか眩しく思えた。