Take2 (take1は上の記事にあります)
「こんにちは」
……お母さん、僕はどうも疲れているみたいです。……または夢の中っぽいです。それも、確実に厄介な方の。悪夢、という枠内で収まりきれればいいんですけど……これ、きっと世界の終わりか何かでしょう。
……と、一通り現実逃避してみて……改めて、目の前に居る人間を見てみる。……というより、感覚として……鏡を見ている。
……うん、なんで目の前に『木田久遠』がいるんだ、これ? なにこれ? ホラー映画? こんな下校時の、なんてことない時間帯に、ホラー? 何か間違えてませんか?
……いや、それよりも今、やるべきことがあるだろう、僕。
「さて、帰るか……」
「帰らないでよ」
……阻止された。……背後の僕が、なにやら『漆黒のナイフ』を取り出して僕に突きつけてきた。……勘弁してくれ。なんだ、今日は? 楓にイジメられすぎて壊れたか、僕の精神?
「……残念ながら、僕には兄弟とかいませんし、少なくとも僕そっくりで凶器突きつけてくるようなお友達もいません」
「うん、そうだね。僕と君は赤の他人だよ? まぁ、僕は君だけど」
「誰がなぞなぞを出せと?」
なんか、調子狂うぞこいつ。僕と外見が同じだというのに、性格全然違うじゃないか。少なくとも、僕はギャグよりツッコミ体質だっていうのに。
……仕方がないので、僕は振り返って……って!
「あんた、なんでまだナイフ構えてんの!?」
夕焼けに反射してギラリと黒光りする刃に、思いっきり戦慄した。これ、僕の命日は近いかもしれない。
「僕はドッペルゲンガーっていうんだ」
「僕の質問無視!? ていうか、なにその『いかにも』な名前!?」
「あははっ……君みたいな人間だと、僕もやりやすいな」
「何が!?」
殺人か? 僕を冤罪にして、犯行でもやるつもりかこの人? って……それはやばいだろ。洒落にならない。そっくりな外見から、普通に、冗談で済まされそうに無かった。
…………なんだかんだで物語は、シラ以上に進むものの、パートナーがすでに『魔物化』しているようなものなのでストーリーはたやすく破綻。
Take3
「こんにちは!」
「こんにちは」
……ちょっとまて、僕。いろいろと今の流れには問題があっただろう?
この、元気いっぱいに挨拶してきた彼女は……おそらく、僕より年上のようだ。サラサラとした長髪の、あんまり行動しそうにない外見と反比例して、どうも活発そうな雰囲気が伝わってくるし、ニコニコと笑顔で居る。でも、あんまり日焼けしていないから……なんとなく、あんまり屋外での運動とかはしないんだと思える。
それに……なにやら、その、振りかざした凶器が……ええと……うん、おちつけ、僕。
「いきなりだけど、私は沙李っていうの」
「……はぁ」
その、沙李さんに、僕はまずやらなければならない質問があるんだけど……。
「あの……その前に、その手にしているのは何ですか?」
僕はその細い指先で握った銀色のそれがどうしても目に付いてしまうので、思わず指差して訊ねてしまった。――すると彼女、物凄く嬉しそうな表情で。
「あ、これメスだよ?」
「……医療とかの、メス?」
「メス」
……確定。彼女、間違いなく危険人物だ。
「さて、帰るか」
僕はすぐさま踵を返すと、早々にその場を立ち去ろうとして足に力の全てを費やす。
「ちょっとまって! 話くらい聞いてよ!」
そんな僕の腕を、ガッと掴んで手首にひんやりとする何かを当てる沙李さん。……さ、沙李さん!?
「うわぁっ! それ、手首! メス当てないで! 洒落になりませんよ!」
「ん? あ、確かにこれなら血管切れちゃうけど……でも、これだけなら大丈夫だよ? ほら、自殺しようとして発見されるので、一番見つかりやすいのはリストカットなんだもん。あれ、確かに死ねはするんだけど、タイムラグがあってなかなか死ねないんだよ?」
「なんでそんなことに詳しいんですか!? ていうか、死ななかったらなんでも許されるんですか!?」
「うん? そういうわけじゃないけど……あ、もし手首切っちゃったら、採血させてね?」
「だ、誰か助けて! この人から逃げさせてぇぇえぇぇぇぇえええぇ!」
…………これほどテンションが違うだけで、シラのときとあんまり変わらないので終了。
Take4
「ただいま」
と、まだ誰も帰ってこない我が家に入り、玄関でドッと腰を下ろした。
……そういえば、あの翡翠、もって帰ればよかったのかな……損は無いだろうし。
「明日あたり、あったら持って帰ろうかな……」
そんなことを呟きながら、僕は階段を上っていった。
…………石城流では、そもそも翡翠から出てこないので意味なし。
……なんというか、ロクなもんじゃなかったですね……。でも何気に久遠と沙李の物語は成立しそうな気がします。……や、それはそれで面白そうではありますけど……(苦笑)。
それと、最後に一つ、普通に小説の短編を更新しておきます。……物凄い短いですが……。