風邪引いたみたいです。……季節の変わり目ですからねぇ……なんか、毎年恒例です。鼻水がマジでめんどくさい。たぶん明日あたりから悪化します。毎年恒例です。
さて、昨日なだかんだで小説のネタがないとか言っていましたが、今日の朝いきなりネタが出来てしまいました。あとはプロットをもうちょっと纏めれば、書き始めることができます。
……が、今作は過去に無い、ほぼ全編ギャグになる感じなので、どんなぺースで書けるかまるで予想できません。挙げ句、今まで必ず作中で一人は死んでいたのに、今作は死ネタ封印という意味不明な制約を設けたので、本当にどうなるかわかりません。このことに関しては……また後日。
さて、前置きが長くなりましたがアナザーデイズです。今回からほぼ番外編……? や、でも、そこそこ最後に向けての構想に必要な話もありますので……半分番外ってところでしょうか? 微みょんなポジション。
あ、今回はやや暗いです。お気をつけて。
松葉杖を壁に立て掛け、ゆっくりと立ち上がる。久々に両足に掛かる重さを踏みしめ、軽く足を宙に蹴り上げてみた後で、彼は一歩を踏み出した。
しばらくは杖に頼り切った生活を送っていたためか少々歩きづらそうだが、それでも怪我をした当初を思えばかなり回復しているだろう。
「そうだね……あと、一週間もすれば大丈夫じゃないかな?」
「まぁ、なんだかんだでしばらくはここに居なきゃならないけどな」
「その方がボクとしてもおもしろくて良いけどねー」
「言っておくけど、お前の勉強のためだからな?」
「さっさと帰って」
と、ここに来てこんなやりとりをもう何十回繰り返しただろうか? もう二週間近くになるというのに、スノーは相変わらず勉強をしたがらない様子だった。……その割には、コールと一緒に居ることが多いようだが。
さて、この二週間……コールが自分の旅の理由を話してから起こった出来事を振り返ってみることにしよう。
この二週間で、コール自身にはこれといって大きな出来事は無かったようだ。療養に励み、生活の手伝いをして、スノーの勉強を教えていく。ただそれだけの日々。だが、久々に家族の一員に居るような暖かさを感じていた。それこそコールにとって大きなことだっただろうか。
グレーを含む盗賊たちとの会話にもよく参加し、時にはスノー以外の人間にも勉強を教えるようになっていた。
スノーとの仲は、最初と比べてかなり良くなっている。あの日、帽子を取ったスノーを女の子として意識したのもその理由だっただろうか。友達や家族の感覚ではない、別の意識も、僅かに見え隠れするようになっていた。……とはいえ、コールがそれに気づいているかは微妙なところだが。
スノーから見たコールは相変わらずのように見える。ただ、以前よりも二人で居ようとする意志がある気がしないでもない。もっとも、コールが「勉強」の二文字を口にすると一目散に逃げ出そうとするので、こちらも微妙なところである。
そんな、暖かくて楽しい日々が続く。そんな二週間だった。
……ただ。……本当に、ただ一点。あの日の出来事を除いては…………。
「なんだか物々しいな」
その日はなにやらいつもと雰囲気が違った。
夜、いつもなら勉強を教える時間になってもスノーの姿が見えず、それどころか居間では盗賊たちが話し合いをしている。
……その手には、各々が武器を持っていた。そして、その盗賊たちの話の内容も、以前グレーから聴かされた話の通りだった。
コールは近くにいた盗賊の一人に話しかける。
「……今日、やっぱり行くのか?」
「あぁ。どうがんばっても、明日の夜に帰ることになるぜ?」
「……そうか」
わかっていることだった。ここが、盗賊のアジトであるということを。盗賊なら……義賊なら、何をやろうとしているのかを。
数日前、グレーから近いうちにとある屋敷を襲うという話を聞かされた。
そこはとある貴族の屋敷で、近隣の村に良からぬ影響を与えているらしいとのことだった。その良からぬ影響、という話だけで、そいつらが人々を苦しめているのだと気づいてしまった。
よくある話である。その地方を治める馬鹿な貴族や国の機関が、なんらかの形で住民から税を搾り取る。旅をしていれば、それは嫌と言うほど耳にしたものだ。
コールが以前住んでいた街ではそんなことなかった。だから、その話は噂程度にしか思えなかったのだが……世界を見て歩くと、あの日と同じように、嫌な現実がボロボロと見えてきてしまう。それが、この現実だ。
そういった奴らから金品を奪い、退治する。……悪を殺す悪になる。それが、ここの義賊なのだと。それが、今日の話なのだと。
「コール?」
そんなことを頭で思い出していると、不意に背後から声が聞こえた。中性的で、でも居間になっては女の子のものだと気づける声。
振り返ると、そこにはやはりスノーが居た。彼女は別段いつもと変わった様子は見せず、いつもの服装と細身の剣を二本腰に下げた状態である。そして、以前の経験から、彼女の服や帽子には何らかの仕込みがされているのだとわかった。
そこには、剣を二本下げた少年にしか見えない、スノーが居た。
「……お前も行くのか?」
その問いに、スノーは何の迷いもなく、それが当然とばかりに頷いた。まるで、いつもの会話に相槌を打つような軽いノリだった。
「そりゃそうだよ。だって、それがボクらのやってることだよ?」
「そりゃそうだけど……」
「あぁ、大丈夫。ボクならたぶん死にはしないから」
「…………」
そうではないのだ。
スノーが死ぬというのは、危険というのはもちろん受け入れたくない。
だが、その態度がおかしい。どこかに出かけるように、緊張もなにもないその様子が、明らかにその年齢とかみ合っていない。……子供が、そんなに簡単に、死ぬかもしれない場所に向かうというのに。なんでそんなに簡単に受け入れてしまうのだろう。
「……まぁ、気をつけて」
「? うん、そりゃ気をつけるよ? 下手したら死ぬし。ま、そうするくらいなら殺すけどね」
「っ……」
「あ、たぶん明日帰ってきたらボク、さすがにちょっと疲れてるからさ。勉強はな無しにしてね」
「お前の体力なら大丈夫だろ」
「えー」
なんて笑いながら。普段の会話と、まるで同じ様子で。彼女はそう返してきた。
そうして笑っていたスノーに、一人の盗賊が呼びかけてきて、彼女は「じゃ、また明日」と手を振りながら去っていく。
アジトには見張りや最低限の盗賊と、コールだけが残される。あとは、みんなアジトの入り口に集まっていった。あとは、グレーの号令さえ掛かれば、ここを出て行ってしまうのだろう。
そして。
……そして、ようやくグレーが言っていた意味が、分かった気がした。
スノーは危険だった。口ぶりからも、こういう行為が何をもたらしているのか、彼女にはわかっていないように思える。殺すという言葉をあっさり口に出来てしまうような、そんな人格が未だに残っているのだ。
……たしかに、これは、まずい。盗賊として生きるならまだしも、人間としては、このまま成長しないと、どうなるかわからない。
それが、コールの出した結論だった。
時間は、本当に残されていないのかもしれない……。
次の日の夜、盗賊たちは帰ってきた。
何人かは負傷していた。だが、欠員は一人も出ていなかった。
話によると、貴族の屋敷は当然何人かの警備がおり、貴族自身も抵抗してきたそうだ。そう話してくれた盗賊の一人は怪我をしていた。あろうことか、グレーも傷を負って帰ってきたそうだ。
……それなのに。
「や、ただいま。コール」
そう言ったスノーの服は色が変わるくらいに染まり、帽子は無くなっていた。そこから垂れ下がった髪の房が、血を吸っているのか奇妙なまとまり方をしている。
「スノー……お前、大丈夫だったのか?」
「何が? ボク、怪我はなかったけど?」
「……っ!」
「あぁ、これ見てびっくりした? さすがに兵士が多くて、ちょっとね。……三人くらい、もうダメになっちゃったかな?」
そういいながら、彼女は微笑んでいた。
その様子を見ている盗賊たちは、それが当たり前とばかりに思っているのか、はたまた怯えているのか、何も言わず二人から距離を置いていた。唯一、グレーだけは壁に寄り添い、こちらをじっと見ていた。
彼の肩には包帯が巻かれ、赤くにじんでいた。それは、紛れもなくグレーの血だった。
……彼女の血は、何度見直しても、流れていなかった。
それが、十日以上前の話だった。今ではすっかり落ち着いているが、出来れば、もう二度と繰り返してほしくない。そんな、狂った思い出のワンシーンである。