昨日みた動画で、JOYに歌いたい曲が結構入った、及び入ることが分かりました。
……以前だったらこれ以上ないほど嬉しかったんですけどねぇ……今、JOYどころかカラオケすら見あたらないので、むなしさ倍増です。なんで一件しか無い店が潰れるかなぁ……。……他に、どこかでJOYがあるトコを探さないと……。
では、昨日の中編をどうぞ。……すみません。予想以上に長かったため、再度分割します。前後編じゃ収まってませんでした。
「つまり、今のが『術式』……アサガオの花言葉を力に変えた場合です。ユウガさんは、アサガオの花言葉を『儚い恋』ではなく『私はあなたに結びつく』で認識していたので、ユウガさんと近くに居た私の手と手が結びついたんです」
「……なるほど、嫌と言うほどわかった」
「すみません、私がちゃんと説明していれば……」
そう言って彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。これがシズク相手だったら、そういうことは早く言えと怒気を散らすことができるのだが、相手はこれ以上責めると泣き出してしまいそうな勢いである。
「僕が指示を受ける前に術を使っただけだから、気にするな」
結局それしか言えない僕であった。声に出すわけにもいかないため、心の中で大きなため息を吐いた。
「あれぇ? やっぱりソラちゃんに対しては優しいんだね? やっぱりベランダのことは見間違いじゃなかったわけか」
そして、未だに先ほどの事件を根に持っているらしいシズクである。僕とソラが座布団に座っているのに対し、一人ベッドに腰掛けるシズクの視線がやけに威圧的に見えた。
……こっちには気を遣うつもりもないので、存分にため息を吐かせてもらう。
「だから、さっきまでの話が全てだって何度言えばいいんだよ。……そもそも、どうしてシズクはさっきから怒ってるんだ?」
「…………え?」
まるで不意をつかれたかのように、シズクの動きがピタリと止まる。先ほどまでの怒りはどこへやら、急に慌てたようにオロオロと視線を彷徨わせた。
「いや、それは……アレよ! 正当防衛!」
「僕はお前を殺そうとでもしたのか? この上なく単語の使い方を間違えてるぞ」
「いいじゃん別にそんなこと! それに、私が怒るのはいつものこと、気にしない!」
……いつも怒っているという自覚があったことに驚いた。しかし、言われてみれば確かに激昂しているらしく顔は真っ赤で、手もやたらと震えている。あまり詮索しない方がよさそうだ。
シズクが唐突に狼狽してくれたお陰で、ソラも驚いた顔をしてこちらを見ている。良い傾向なので、手早く話を移行させよう。
「じゃあ、気にしないで話を続けるか」
「……ちょっとは気にしようよ」
今度はがっくりと肩を落とす僕の幼馴染み。そして、その光景を見ていてなにやら苦笑しているのはソラだった。……もう、何がなんだかよくわからない。わからないが、シズクも「いいんだけどね」と、なにやら愚痴っぽく零していたのでいいのだろう。
「花式に関してはさっきの通り、花言葉に対応した現象が起こるってことで間違いはないんだな?」
「えぇ。ただ、花言葉でも『可憐』のように容姿を現すような言葉や、『輝く心』のように精神的で抽象的なイメージの物は発動しないと思います。仮に使えても、効果が目に見えないでしょうね」
「つまり、『恐怖』や『移り気』、さっきの『私はあなたに結びつく』のような、効果がわかりやすい花言葉の方が花式には使いやすいわけか」
「そうなります。あと、さっきはアサガオの葉で試しましたよね? あぁいった形で、植物の部位を使っても花式は使えますけど、やっぱり植物全体で術を使った方が効果は大きくなります。さすがに、腐ったりドライフラワーになってしまったら使えませんね」
「わかった。他に留意点は?」
「うーん、ここまでの説明でほとんど喋ったと思います。あとは、術の行使に慣れたら先ほどのような……暴発も、無くなりますし。スムーズに術式を行うことができるようにもなります。それくらいですかね」
暴発という言葉を口にした辺りから、例の事件を思い出したのか口早に説明を終えてしまった。そこで話が一区切りしたのを狙ったかのようなタイミングで声が掛けられる。
「で、話は終わったの?」
まるで子供が早く家に帰りたくて拗ねているような顔で割って入った。ソラは一瞬驚いて肩を震わせたようだが、すぐに微笑んで「はい、終わりました」と頷く。大方、話について来られなくて退屈だったのだろう。
「お前なぁ、自分が巻いた種くらい、自分でなんとかしようとか思わないのか?」
「だって、私は聞いてもよくわからないし。それに、私だってちゃんとやることやってきたんだよ? なんとかするつもりはあるよ」
「そういえばそんなこと言ってたな。それで、どうだった?」
尋ねられたシズクはため息を吐き出して首を横に振った。
「こればっかりはどうにもならない。ソラちゃんが入れそうな部屋は今のところ空いてないし、私たちくらいの年頃の子を預かってくれる人なんて見つかりそうもない。それに、住所不定で学生でも無いとなると……」
「そりゃそうだな。そうなると……このままだと警察に補導されるか、記憶喪失扱いで病院送りにされるのが妥当か」
冗談半分で住所や学歴等も聞いてみたが、当然あるわけがないと言われている。式神を自称するやつがそんなもの持っているわけがなかった。
ある程度予想はついていたことだが、こればかりは片手で頭を抱えてしまう。
「ソラ、お前は本当に式神だよな? ただの人なら、素直に住所氏名年齢を言ってくれ。そうでもしないと住処なんて確保できないし……そもそも、住所があるなら帰ってくればいいから」
「えーと……すみません、本当に式神なので、住所も年齢もありません。氏名はソラです。苗字もなければ戸籍もありませんけど」
「ユーガ、疑うのも大概にしないとしつこいよ?」
そうは言われても、この状況をどうすればいいのか検討もつかないぞ。廃屋でも探してそこに住ませるか? ダンボール完備で橋の下で生活してもらうか? いっそのこと記憶喪失の扱いで病院送りにさせるか?
「……ダメだ、全く良い案が浮かばない」
「ねぇユーガ? 心なしか、さっきから変な想像してない?」
頭をぐしゃぐしゃと掻きながらシズクの呟きをスルーし、なおも思考する。いつの間にか考えが声に変換してしまっていたが気にしない。
「アパート借りるのっていくら必要だ? そもそも、式神って金持ってる?」
「あの、持っていたらこんなに考えてもらわなくていいのですけど」
「金が無いのか……だったら、強盗だな」
「な、なんでですか? 話が飛躍しすぎですよ」
「……もう、物語の典型で同居でもしてもらうか?」
「それがいいじゃん! 犯罪よりずっといいよ!」
その怒気にも似たシズクの声に、僕はハッと我に返る。そして、今の言葉をもう一度自分の中で反芻してみる。
「えーと、同居人扱い? そりゃ、シズクのとこに預かってもらえるなら一番だけどさ」
「ユウガさんのところはダメなんですか?」
「……普通に考えて一番ダメじゃないか?」
「いえ、一応式神ですし。外見と精神こそ女性ですけど、式神ですから。契約者の近くに居ないと不安というか、なんというか……」
「……外見も精神も女性だからこそ、一番ダメだと思うんだけど?」
式神だからこそ契約した人間の傍に居るというのは道理ではあるが、手がしばらく合わさっていただけで顔を赤くするような精神のソラが、なぜこういったことには鈍感なのだろう? 会話していて思うが、意外と天然である。
そんなソラの意見はとりあえず無視して、今度はシズクの方へ振り向く。
「そういうわけだからシズク、お前の方で預かってもらえるか?」
尋ねた直後、僕は以前見たシズクの部屋を連想し、嫌な予感だけが頭を過ぎった。話を振られたシズクは、しばらく唸って口を開く。
「できないことはない。けど……私が住んでる部屋って荷物でいっぱいだから、場所が足の踏み場とベッドくらいしかないし、無理かも」
「やっぱりそうか! お前は普段から片づけをしろと何度言えばいいんだよ!」
「あ、酷い。そういうユーガはもっと雑品を部屋に入れて物を散らかしてよ!」
「どういう文句だよそれは!」
「というわけで、私の所に来てもいいけど、住み心地は補償しない。ユーガの部屋に先に来なければまだ住む気になれた」
そういって頷き、一人納得した様子のシズクであった。シズクは基本的にこの調子なので、もういつものことと割り切るしかない。怒る気力が無駄というものだ。
「じゃあどうするんだ? ホントに僕の部屋に住ませるつもりか?」
「いや、さすがの私でもそれはダメだと思うから……とりあえず、片づけるだけ片づけてくるから、準備が終わったらまた声をかけに来るよ。この際だから、大掃除も兼ねるかな」
そう言って立ち上がったシズクは、ぐっと背伸びをして僕らを見回してから。
「それまではまぁ、自由解散ってことで。あ、もう他に連絡事項は無いよね?」
「当面の問題はソラの住居確保だったから、もうやることは無いだろ。こっちは、花式に関して動きがあればまた話す」
「わかった。じゃあ、また来るね」
それだけ告げて玄関へと向かおうとするシズクに、ソラは大慌てで「待ってください!」と声を書けていた。彼女もまた立ち上がりシズクの方へ駆け寄っていく。
「さっきから話がどんどん進んでいますけど……いいんですか? 邪魔になりません?」
「んー? まぁいいんじゃないの面白ければ。それに、そんな辛気くさい顔ばっかされてたら、ホントに追放しちゃうよ?」
「えぇと……」
シズクの意地悪そうな笑顔に戸惑ってしまったらしく、ソラはその場で動けなくなっていた。嘆息して立ち上がり、僕はソラの肩に軽く手を置く。
「いいんだよ気にしなくて。シズクはあぁいうヤツだから」
「あぁいうヤツ……ですか?」
わかっていないようで首を傾げる彼女に、僕は大きく頷いて言い切ってやった。
「直情的で感情的に動いて、一度いいだしたら他人の言うことは聞かないバカ」
「こらユーガ! なんか私の評価酷くない?」
「幼馴染みが客観的に見た評価に間違いがあると? でも、そういうヤツだってわかっていないと僕はソラを任せようなんて思わない」
「……どういうこと?」
「シズクのことを頼りにしてるってことかな」
僕はそう言って苦笑して見せた。シズクは僕の顔をしてなぜか動きを止めていたが、すぐに満面の笑顔を浮かべる。
「そうそう。ユーガがそういうんだから、ソラちゃんも私を頼っていいんだよ。じゃ、そういうわけだから私は片づけに帰るかな」
「あぁ、頼む」
そのやりとりを終えてすぐ、シズクは部屋を出て行った。彼女が玄関のドアをくぐったのを確認すると、僕はいつものように鍵を閉める。……あいつ、合い鍵で入って来たなら、帰るときも鍵くらい閉めて帰ってくれたらいいのに。
「さて、こっちはどうするかな」
独り言を呟き部屋に戻る。いつも思うことだが、よく騒ぐ幼馴染みが一人いなくなるだけでこの部屋はやけに静寂に包まれる。それだけここには何も無いということなのだろう。
その、本来なら何もない部屋には、いつもは居るわけがない少女の姿がぽつんとたたずんでいる。それが、普段の光景の中で一際目立っていた。
「……まぁ、シズクが一通り終わるまでは適当にくつろいでいろ」
彼女は立ち上がったまま、まるで花がそこに咲いているかのように、静かに僕の方を眺めていた。こうも指示を受けないと動こうとしないヤツは、あまり接したことが無いのでなかなか対応に困る。……こうしてみると、本当に式神のイメージに近いものがある。
「もし暇ならそこの本棚からどれでもいいから読んでいたら、そこそこ時間は潰せると思うぞ。あ、文字は読めるよな?」
続けて声を掛け、彼女の背後にある本棚を指さして読書でもさせることを促した。ソラは何かを考えているような様子を見せてから小さく頷く。
「えぇと、はい。そういった知識はユウガさんをコピーしているので大丈夫です。大丈夫ですけど……その、私は何かすることあります?」
「別に無いな。もしあるならとっくに手伝うように頼んでる」
ソラがやることを探しているように、僕も今はそんなにやることは無い。とりあえず時間はまだ早いものの、夕食に何か残っているか冷蔵庫の中を詮索してみる。せまいキッチンの隅にある小さな冷蔵庫の扉を開けて、消費電力が掛からない程度に手早く見回す。
「……面倒だからインスタントで済ませるか」
今日は休日だというのに色々とあったせいか、日常のことを行えるほど気力が湧かなくなっていた。調理に手間が掛かるような物はできれば今日作りたくない。
ただ、せっかく台所に来たので、ノドの乾きを潤すためにコップに水を注ぐ。日陰に居たとはいえ、夏場ではさすがに暑い。
「そういえば、お前の食費をどうするかも考えないといけなかったな」
コップの水を一口含み、ふとそんなことも思い出す。ソラの住処は解決したとはいえ、食費まではどう負担するか……。
話を振られてソラは、本棚から本を選びだそうとしていた視線をこちらに向ける。
「あ、そういえばその辺のことは話していませんでしたね。先ほども話したとおり、式神は植物と人間から構造されています。こんな風に人語を話したり、人間の姿をするのは人間の部分ですけど、それ以外はほぼ植物と考えて下さい」
「……おいおい、お前まさか、光合成でもするのか?」
「しますよ?」
二口目の水を噴き出しそうになった。一方で彼女にとっては、それが当然とばかりの反応である。ソラを人間として見ている部分があるためか、あまりの非現実的な発現に立ちくらみがした。
「じゃあ、あれか? 光の下で水ばっかり飲んでいれば大丈夫とか言うつもりか?」
「水の飲み過ぎは死んじゃいますよ。枯死しない程度に飲まないと」
「そういうことは訊いてない。……で、本当にお前、水だけで生きるのか?」
「たまには肥料もほしいです。安物でいいので。とはいっても、私はアサガオなので基本は水と光で十分ですけどね」
「……頭が痛い」
目の前の少女が、喜々とした表情で「私、生まれてから水しか飲んでないんだ」と言ったらどう思うだろう? ハッキリ言って現実味の欠片もなく、なにより不気味である。植物だからと言ってしまえばそれまでではあるが……。
「じゃあなんだ? お前、冬はどうするつもりだよ」
「そこは人間の部分を生かして枯死は免れます。そうじゃないと、契約主にも迷惑ですから。その代わり、冬はとても弱くなりそうですね」
「……生活感が完全に多年草だな。一年草のくせに」
アサガオは一年以内に実を付けて種を作り、枯れてしまう。だが、話の限りソラは冬こそ弱るが根が生き続け、翌年また活動を再開する多年草のようだ。何とも都合のいい話である。
「その代わり、今の時期の私はフルパワーですよ。秋が来るまでは大丈夫です」
「すっごい嬉しそうだよ、今のソラ」
この話のお陰でソラが元々植物であるということを深く理解した。今のソラ、無駄にテンションが高くなっている。
「じゃあ、睡眠はどうなる?」
「そこは割と人間に近いですね。ほら、植物って夜は光合成できないから呼吸だけしますよね? それって人間でいう睡眠に近いんですよ。……冬は死活問題でしょうけどね。まだ経験したことありませんけど、冬眠に近い状態になってもおかしくないです」
「少なくとも、ソラが寒いのは大嫌いってことはよくわかった」
僕の知識や経験がソラの中にも譲渡されているためか、冬の寒さを想起しているらしい。まるでこの世の物とは思えないほどの絶望を突きつけられたような顔をして、両腕で自分の身体を抱え込めばどれだけ嫌がっているかわかるだろう。
「案外、冬になったら僕ら揃って部屋に引きこもっていそうだな。……シズクがそれを認めてくれるとは思えないけど」
そういって苦笑すると、ソラは「そういえば」と切り出してくる。
「さっきからよくシズクさんの話が出てきますし、二人とも仲いいんですね」
「……仲がいいように見えたか?」
「えぇ、すっごく」
今日ソラと出会って、一番良い返事だった。