妖々のルナを出したりしていたので、今まで殆ど未着手……というより、美鈴でボロボロになって四面を全く越えられなかった紅魔ルナにチャレンジ。
……結果、レミリアの『紅色の幻想郷』でゲームオーバー。プラクティス開拓も5面止まりでした。……ハードやったときと、弾数が違いすぎませんか、あれ。初見であれ目にして、慌ててボムしてしまったくらいでしたよ? 「あんだけ大玉が迫ってるのに避けれるのか!?」といった感覚で。レザマリでボムゲーにしてここまで来たので、もうどうにもなりませんでした。あんなの、気合い避け出来るのか……?
では、昨日の続きアップします。
「それで、フィサはどうやってここに入ってきたんだよ」
一通りの自己紹介を終え、真っ先に尋ねたのはそれであった。ちなみに、フィサは呼び捨ての方が好きらしく、言葉遣いも特に気にしないとのことなのでため口にする。
「だから、それはさっきも言ったとおり、入ってきたのは普通に入ってきたんだよ。アタイ、一度ホントの事言ったら二度目は嘘にしない主義でね」
「じゃあ、フィサ姉はいつからあそこにいたの?」
そう尋ねるシズク。……フィサ姉って。
「んー。こればかりはアタイもよく覚えちゃいないね。ずっとショウの傍に居たわけだ、かれこれ三ヶ月くらい、この部屋に居るんじゃないか?」
「……それは嘘だよな?」
「失礼な。アタイは今回マジメだぞ」
僕の指摘を今回は否定するフィサ。だが、いくら何でもそれは変じゃないか?
「ま、こんなアタイでも式神だから、契約者の傍に居なきゃならないって思うわけだ」
「その気持ちはすごくわかります。私もフィサさんと同じで、ユウガさんの近くに居ないと、式神としてまずいって思いますね」
「これでアタイが嘘だって言ったらどうする?」
「えっ、嘘だったんですか? そんな……」
「おいおいそんな落ち込むな。嘘でもないのに疑われたこっちが落ち込むじゃねぇか」
式神たちは意外と意気投合していた。ただし、嘘つきのフィサと純粋すぎるソラの組み合わせは、なぜかソラの方に軍配が上がっていた。……自分で嘘つきと言っておきながらフィサのやつ、嘘を信じられるとそれはそれで困るらしい。
「……お前らの話はそれくらいでいいとして、フィサ、お前はどうやって僕らの目の前に現れたんだ? お前の花言葉は『偽り』だろ?」
「あぁ、だからアタイの花言葉を使ってただけ」
それが常識とばかりの対応であったが、僕には余計わからなかった。
「『偽り』とお前が出てきたこと、どう関係するんだよ? 最初からあそこに居たっていうけど、嘘を吐くことと姿を消すことに関係は無いだろ?」
「いや、確かに嘘は関係ないけど、『偽り』は関係有りさ。手早く言ってしまえば、アタイの存在を偽ってたんだからな。それ以上でもそれ以下でもない」
「は、はぁ?」
「難しい事じゃないだろ。真実を偽れば嘘になる。けど偽りがばれなければ、嘘と知らない相手にとってはそれが真実だ。アタイの存在そのものを偽って自分を消して、アタイが居ないという嘘を真実に置き換える。それがアタイの能力の全部だ。理解できるか?」
「……理解はできる。言っている意味もわかる。わかるけど……非現実的すぎて頭が痛い」
ソラと出会ったときもそうだが、自分の中の常識がことごとく崩されるとどうも理解に苦しんでしまう。つまり、フィサは自分が存在しないと嘘を吐いていたから、僕らは認知することが出来なかった。それはわかるのだが……もっと現実味をくれ。
ちなみに、シズクは予想通り目を点にして「どういうこと?」と首を傾げていた。予想外なのはソラで、彼女は納得がいった様子で頷いていた。さらにソラの質問。
「でも、私たちはフィサさんが存在を偽っていたことを知っちゃいましたよね? それってつまり、もう姿を消せないってことなんじゃないですか?」
「頭の固いヤツとは違うねぇ。そのとおり、アタイはお前らの前に姿を出した。偽りがばれて、アタイが存在しないってことが嘘になった。そうなると、アタイの存在は真実になるから、もうアタイはお前らに認知されっぱなしってわけだ」
「やっぱり……それ、いいんですか?」
「そうでもしねぇと、話もろくにできねぇだろ。これくらいの代償は軽いさ」
そんな具合である。……話にはついていける。フィサは存在しないという嘘がばれたので、もう存在を偽ることが出来なくなった。それはわかるのだが……頼む、もっと現実的な話をくれ。僕を異世界に突き落とさないでくれ。
ちなみに、シズクは既に考えるのを止めていた。考えすぎて頭がオーバーヒートしているのか、顔を赤くして「とにかく!」と大声で言い放つ。
「つまり、フィサ姉はずっとこの部屋で兄さんの傍にいた。オーケー?」
「……う、うん、オーケー。オーケーだけど……それ、なんかアタイの説明を完全に無視した結論じゃねぇか?」
しかも間違っていないため言い返せないらしく。「なんだかなぁ」と一人呟いてフィサはため息を吐き出していた。一方シズクは嬉しそうにガッツポーズを決めていた。
ただ、シズクの言うことにはある意味同意できる。確かに姿を消していた方法はあまりに現実離れしすぎているが、この説明を無理にでも受け止めなければ話が続かないのである。それに、ソラが疑問視したことも気になるのだ。
「シズクは置いておくとして。フィサは今まで姿を隠し続けていたんだよな? なのに、今回は僕らの前に姿を現した。ソラの言うとおり、もう僕らの前で自分の存在を偽れなくなったのに。その理由はなんだ?」
嘘がばれたらその人物にはもう同じ嘘は付けなくなる。だというのに、フィサは僕らの前に姿を現すことで、嘘を自白したのだ。そして、ソラとの会話でフィサの目的は僕らとの会話であることがわかった。……今までずっと姿を隠してきた式神が、わざわざ出てきた理由。そう考えると、話題となりそうなのは限られてくる。
「……花式に関すること。または、翔真さんに関すること、どちらかだろ?」
「ご明察。ま、さすがにそれ以外の目的を考えるヤツは居ないだろーな」
肩を竦めて答えるフィサ。しかし、軽い口調を叩いてすぐ、彼女の表情は真剣な物へと変貌した。
「今からお前らにちょっとした質問をしたいんだが、アタイの質問にはマジメに答えろよ。アタイは今回、嘘つかねぇ。けど、アタイを偽ろうなんて考えてみろ。お前らの記憶でも存在でも、なんでも偽りに変えてやる」
彼女の雰囲気が、別人を思わせる物となる。まるで、今まで会話していた相手が仮初めであったかのようだ。急激な変化に戸惑うものの、すぐ苦笑いで答えてやる。
「……お前の嘘を吐かない、なんて発言こそ偽りに聞こえるぞ」
「違いねぇ」
フィサは軽く笑い飛ばした。
「要は正直に話せってことだ。夜車みたいに普通に構えて普通に答えてくれるなら文句言わねぇよ。脅したのは悪かったけど、そんなに怯えるなよ、ソラ」
突風を思わせるほど一瞬の変化が終わり、先ほどのように不敵な笑みを浮かべる。その声に誘われるように振り向くと、ソラはジッとフィサの方を見ていた。怯えているのか、不安そうな表情をしている。シズクもまたフィサに視線を預けているが、特に怖がった様子ではない。
「ソラ、お前は式神だろ? 契約者がアタイに反抗してんのに、お前が怯えていてどうするつもりだよ」
「うぅ……すみません」
同じ式神にへらへらと笑いながら諭されるソラ。相変わらず式神というよりは人間扱いしている僕にとって、こういうやりとりをみると複雑な気持ちである。
その会話の後、すぐに口を開いたのはシズクだった。
「フィサ姉、私たちが本当の事さえ言えば、フィサ姉も嘘は吐かない……本当の事、教えてくれるんだよね?」
彼女にしては異様とも思える、静かなトーンの声が部屋を満たした。間があって「アタイ、信用ねぇな」と一人ぼやく声が聞こえた。
「とはいえ、アタイもショウの式神として、話せることがあれば話せないこともある。それだけは、アンタも理解してくれ」
言葉遣いに反して、フィサの声は優しい物だった。だが、シズクは納得がいかないとばかりにムッとした表情を見せている。
このままでは埒があかないと判断したので、僕はさっさと話を進めて貰うよう促す。
「それで、フィサが訊きたい事ってなんだ?」
「そうだね……まず、夜車がソラと契約したのはいつ頃?」
「四日前の休日。明確な時間はわからないけど、昼間に契約した」
「なるほど、それなら術式が上手く使えなくて当然か。まだ契約して間もないわけだ。それで、どういう経緯で夜車は契約した?」
「シズクが翔真さんの残したノートを見つけて、そのノートと中にあった人形を元に手探りでやった。契約に使ったのは……」
「ああ、そこまで言わなくていい。……ノート?」
「ノートなら持ってきてるよ。これのことでしょ?」
そう言って、シズクは自分の鞄から『花式』と記されたノートを取り出して差し出す。ノートの中身なら昨日までにある程度頭に入れたので、シズクに返していた。
自分の前に向けられた手書きのノートを手にして、フィサはパラパラとページをめくっていく。ある程度内容を確認して閉じると、一度だけ小さく頷いた。
「確かに、これはショウのノートだな。あいつは確か、二人目の契約が出来ないかと人形を作って失敗したはずだから、ノートに挟まっていたのも納得できる」
それが人形を作っていた理由か。そして、失敗した理由もよくわかる。契約はあくまで一番好きな花を使った物だから、二つ以上の契約ができるわけがない。好きな花が無かったシズクが失敗したことからも窺える。
「それで、お前らが持ってる花式の知識は、だいたいそのノートに関することとくらいだろ? ソラの持っている情報はほぼそのノートの中と、アタイらの式神自身に関することだけのはずだからな」
詰まるところ、ソラと契約した日に話を聞いたことが、僕らの持っているほぼ全ての情報である。具体的には花式の概要と、術式の使い方。それと、式神に関する人間との違いといった具合である。
「そんなところだ。正直、フィサが自分の花言葉を使っていることに驚いたくらいだ」
「そうかい? 式神なら自分の花言葉を、自分に関する範囲で使えるのは常識だぞ? アタイだったら、アタイ自身を偽る程度に術を使える。ソラ、お前は使ったことないのか?」
指摘されたソラは、顔を赤くして変なうめき声を出しながら顔を逸らしてしまった。そして、シズクは苦笑い、僕は嘆息を吐き出す、といった具合にそれぞれ変わった反応を見せる。一人訳のわからないフィサは首を傾げていた。
「それに関しては触れないでやってくれ。僕らも、アサガオの花言葉でちょっとしたトラブルがあったんだよ」
「ふーん。でも、式神なら術使える恩恵があるなら、使えるときに使わねぇと損だと思うけどなぁアタイは」
「ぜ、絶対に使いませんよ私は! えぇ、絶対に!」
このままではソラがあまりにもかわいそうなので、フィサにそっと彼女の花言葉を教えておいた。僕が思う花言葉と、ソラが思う花言葉を。それを耳にして、フィサは納得がいった様子を見せた後、居心地が悪そうに視線を逸らしていた。
「あー……まぁ、その、なんだ。とにかく、お前たちはノートの中身しか情報を知らない。そういう認識でいいわけだな?」
「こっちとしては、むしろ情報がほしいくらいだ。花式そのものが非常識だから、内容を信じるのに苦労しているし、そもそも推測のような文章もあるからどこまで信じればいいのかわからない」
「そりゃそうだ。こんなノート、信じるのは作者のショウくらい。……信じていたから、ここまでやりやがったくらいだ」
そうささやいて、彼女の手はそっと翔真さんの痩せた頬に伸びた。翔真さんに触れたフィサの手は、まるで子供を宥めるように優しげなものであった。
「アタイからの質問はもう終わりだ。あとは、アタイから話せる事を話してやるよ」
そうしてフィサは瞳を閉じ、二人の記憶を想起するように話し始める。
「このバカが本当の事を話したかどうかは知らないけど……こいつの話が本当なら、花式は、ずいぶん古い書物を元に自分で組み立てたんだとよ。そういう点で、ショウは天才だよ。なにせ、過去に忘れ去られた術を、現代に再現したんだからな。頭は良くて人柄もいい代わりに、知的好奇心の塊みたいなヤツだ」
「……まさか翔真さん、好奇心だけで花式を再現したって言うんじゃないよな?」
「案外そうかもしれねぇぞ。あいつとは半年以上、去年の秋頃からの付き合いだけど、お前らに隠れて花式のことを調べてやがったからな。そのノートは、そんな翔真が確定事項と推測を書き綴ったノートだ。そういえば、夜車にも本を借りてきたことがあった気がするな。そこから花言葉を知ったりもしたか」
「そういえば、去年花言葉の本を貸してくれとは言われたけど……。……去年って言ったって、貸したのは冬だぞ」
去年と言えば、翔真さんにとって受験の真っ只中である。そして、冬は受験生にとって追い込みの時期であることは容易に想像できる。……そんな状況でよくこんなにノートを作れたものだ。改めて、翔真さんらしいと思ってしまう。僕と同じ感想だったのか、シズクは呆れた表情を作りながら言った。
「きっと兄さんのことだから、花式を本当に全部調べるんだったんだろうね。そして、再現させたからには、このノートを完璧にするってところかな? まったく……変なところで常識に囚われないんだから」
「妹にまで呆れられて、こいつも立場ねぇな」
シズクもまた翔真さんの眠るベッドに近づいており、僕とソラは二人を眺めるように立っていた。そこで、ソラもポツリと零す。
「でも、翔真さんが花式を蘇らせてくれないと、私だってここに居ませんから。私はやっぱり感謝したいです」
「そうは言っても、お前だって元はアサガオの種だろ? 僕に、実際に何かあるわけでもないのに契約されて人間の姿になって、普通は嫌じゃないか?」
式神とは本来、従者のために働くための生物に近い存在である。けれど、ソラは今も僕らのアパートに住み込み、平穏極まりない日々を過ごしている。ハッキリ言って、契約されても何のために式神にされたかわからない状況なのだ。
僕の質問に、首を振って否定するソラは、とても嬉しそうに微笑む。
「いいえ。私、ユウガさんと過ごせる毎日が好きですから」
「……翔真さんと一緒に居るフィサといいお前といい、変わってるヤツら」
式神とはそういうものなのだろうか? そういう事柄に関してはノートに記されていなかったのでよくわからない。わからないが、ソラはお世辞抜きにこの生活を好んでいるようなので、そういうものなのだろう。
僕らの会話が終わった頃、どうやら話を続けようとしていたらしいフィサと視線が合った。なぜか僕らを見てニヤリと笑われた。
「そんなわけで、ショウがどうしようもないバカってことは置いておくとして。ノートに関してはそんなところで、ショウ自身が纏めていた花式の未完成な説明書ってことだ。どんな書物を参考にしたとか、どういう経緯で知ったとか、そんなことは本人に訊かないとどうにもならないね。こればっかりはアタイも訊いたことがない」
「だったらフィサ姉、別の質問してもいい?」
ここで、シズクが挙手して問いかける。それはきっと、僕らが最も注目している事柄であった。だからこそ、フィサは何を尋ねられるのかわかっていたのだろう。シズクが質問する前に、その内容を口にしたのだから。
「ショウが、なんでこんなことになったか……ショウが倒れたあの日、何があったのか。そんなところだろ?」
「うん。私はずっと、それが知りたかった。だから教えて」
真剣なシズクの視線を受けるフィサ。僕やソラも同じ気持ちであり、彼女の返答をただジッと待っていた。空気がシンと静まりかえり、誰もがフィサの一声を待っていた。
やがて、空気が変わる。偽りのない、たった一言によって。
「ショウに何があったのか、アタイは教えられない」