親がブルーチーズなるものを買ってきて、一口でリタイアしたとのことだったので僕もチャレンジ。
……死んできました。……いくらチーズが好きな僕でも、苦手です。しかも高かったらしい(親は以前から食べてみたかった、とのこと)。
あと、紅魔ハードを霊夢Aでチャレンジしてみた結果、スカーレットマイスタで終了。……相変わらず、地味に抱えてます。それがなかったらと思うと……うぅん。まぁ、ボムに頼っている面も相変わらず在るので、今のままだとしんどいのは目に見えているのですけどね。
では、最近は意外と自分でもネタを探していた方だと思いますが、やっぱりネタが無いので式神の花言葉を更新します。今回は前後編でなんとかなりそうです。
目を閉じて意識を集中し、手の内にある一枚の葉にイメージを傾ける。そうしてすぐ、手の内から木漏れ日のような小さく柔らかい光が生まれた。
そうして、目を開いて術を放とうとしてその刹那。
「おりゃあっ!」
なんとも威勢の良い言葉と共に眼前まで迫っていた幼馴染みが繰り出す拳が、何の抵抗もできない僕の腹部へと打ち込まれた。あまりのショックに内臓が飛び出すのではないかと思う。激痛と衝撃に身を委ね、僕は為す術もなく地に落ちた。
その後、すぐに手の中にあった光が破裂。鈴の音を思わせる音が辺りに響き、今更になって術式が発動した。
「ぎゃあっ!」
女の子というより悪役の断末魔に近い声を上げ、シズクは僕の傍から弾かれるように後方へ突き飛ばされる。それがあまりに唐突な現象であったためか、シズクは受け身を取ることもできず尻餅をついていた。
そしてすぐに僕を睨みつけると、怒りを露わにして捲し立てる。
「ちょっとユーガ! 手加減くらいしてよ!」
「……それは、こっちのセリフだ……うぇぇっ、死ぬ……」
活気に満ちあふれた声とは正反対の、今にも消えてしまいそうなか細い声で答える。もう、いっそ内蔵の全てを取り除いてしまいたいと思うほどの激痛に、僕はただただ身を屈めているのだから。……相変わらず、男女の力関係が真逆な僕らである。
そんな僕を心配したのだろうか、この場に居たもう一人の少女が僕の傍へと駆け寄ってきたのがわかった。
「ユウガさん! 大丈夫ですか――きゃっ!」
どうやら、術式発動中の僕に触れようとしたのだろうが、痛みに耐えている僕は振り向くこともできない。だが、驚いたような声や後ずさる音から察するに、僕に触れようとしたら花言葉の文字通り、弾かれてしまったと言ったところだろう。
「……なんか、すごく虚しくなる花言葉だな」
術式――ホウセンカの『触れないで』の効果を痛感しながら、僕は腹部を押さえていた。以前使ったときに効果は知っていたが、ここまで誰も近づけなくなる術だったのか。
さて、なぜこんな事になったのか。休日であるにもかかわらず、何が楽しくて幼馴染みと大乱闘しなければならないのか。それは、紛れもなくシズクのいつも通り迷惑で突発的な提案から始まった物だった。
彼女の趣向からして、マンガの展開を例に出しやすいのはよく知っている。幼い頃からの付き合いであれば、それも嫌と言うほど把握できてしまう。そして、直情的で後先の迷惑を考えず人を連れ回すことも、これでもかというほど知っている。
……だから、シズクがいきなり「特殊能力は戦闘の中で目覚めるのが王道だよね」などと言いだした辺りから、こうなる予感は的中していたのだ。特訓という名目で、シズクによる一方的なリンチが始まるのは、予想できていたことなのだ。
「そもそも、花言葉使って戦うって発想、どうなんだよ……」
どうせ土が付いてしまった服なので、そのまま仰向けに寝転がる。自分のぼやきなどかき消されてしまうほど空は遠く青いのだろう。だが、僕の目に映るのは樹木の枝葉に遮られた空色の欠片と、そこから差し込む太陽の光だけである。
僕が思わず口にしてしまったことに反応したらしく、シズクは立ち上がり僕を見下す用にしてビシッと指を差し向けて宣言する。
「こういう特殊能力は、大概戦うためにあるって相場で決まってるでしょ? それに、戦いじゃなくても、こういう自分に必要な場面なら自然と力がつくものじゃん」
「……お前の発想はマンガの見過ぎだ」
ついでに言えば、特殊能力は戦闘中に目覚めるものであると話しているが、実際は花式という能力がとっくに開花している。ハッキリ言って、シズクの思案は的はずれも良いところなのだ。
そういう僕の主張を聞いてくれたら、どれだけ楽だっただろうか。もしその真実に気付いてくれたら、僕はこの休日を有意義に過ごしていたし、朝早くからここに駆り出される必要もなかったというのに。
そんな僕とシズクの関係に付き合わされている式神は、心配こそしてくれるものの、シズクの暴走を止める力を持っていないのが非常に残念である。
「ユウガさん、大丈夫でしたか?」
術の効力が切れたため今度こそ僕に近寄り、負傷した腹部にそっと手を伸ばす姿が見える。彼女が普段から被っている麦わら帽子に木漏れ日が遮られ、その影の下には僕らよりも少し幼く見える顔つきの女の子が心配そうに見つめていた。
「これが大丈夫に見えるか?」
「……すみません、大丈夫そうに見えません」
「だから、ユーガは身体が弱すぎるんだって」
僕を本気で気遣う式神とは裏腹に、僕との付き合いが長い幼馴染みはそれが当然とばかりに言い放ってきた。その言葉になにやらムッと来たらしく、立ち上がりシズクに反論を始める。ちなみにソラの服装は、出会った当初の膝の辺りまであるワンピース姿なので、立ち上がられる前に視線を逸らしておいた。
「シズクさん、たしかにユウガさんは弱いですけど、だからもっと気遣ってあげないと」
それを言われた男子の気持ちがどんな物か、彼女にはわかっているのだろうか?
「それくらいわかってるよ。これでも私はユーガの事、それなりに知ってるわけじゃん? だから、手加減して打ち込めばいいってわかってるの」
その手加減で完全にグロッキーな僕の身体能力にも泣けてくる。
「ですけど! ユウガさん、今にも死んじゃいそうですよ?」
手加減で死にそうに見える僕って、一体……。
「だから死なないって。それに、ソラちゃんよりも体が弱そうなユーガも悪い」
……どうして僕の体力が無いか、長い付き合いであるシズク自身もちゃんとわかっているだろう? それくらい許容してくれ。
「だからって、いくら私より虚弱でも、それは人それぞれです。ユウガさんは悪くないですよ!」
……自分の式神にまで弱いと言われた僕って、何だ? それ、男としても契約者としても、どうなんだ?
「あ、あれ? ユーガ? ひょっとして泣いてるの? もしかして相当痛かった?」
「あの、ユウガさん、どうかしましたか? やっぱりきつかったんですか?」
「お前らの発言がな」
皮肉めいた口調で言う物の、二人揃って首を傾げていた。自分の虚弱体質くらい、自分でよくわかっている。わかっているが、ここまで集中砲火を浴びせられたら心が折れそうになる。心なしか胸まで痛くなった。
ポケットの中から一枚の紙の包みを取り出し、中から一粒の種を出す。ゴマ程の大きささえない矮小な種である。そこに意識を集中し、花言葉のイメージを膨らませる。塵ほどの種が微かに反応を示し、生み出された微かな光はすぐさま弾けて僕の中へと消えていく。
「……これは、植物自体が小さすぎるんだろうな」
先ほどの種は、翔真さんが持っていたらしいポピーの種である。ケシ科植物であり、ケシ粒という言葉があるとおりその種はかなり小さい。そんな種から力を借りようとすれば、当然その力も小さな物となるのだろう。一応『癒す』という花言葉の通り、心なしか患部に僅かな暖かさを感じ、少しだけ痛みが軽減された気がした。
もう一度同じ種で再び術を使うことが出来ればいいのだが、残念ながら力を貸した植物が何度も力を貸してくれる様子はない。基本は一度使った植物は、日を置かなければ力を貸してくれないという解釈でいいのだという。
少しばかり休み、シズクから受けたダメージも術式で僅かに回復させることができた。僕はゆっくりと身体を起きあがらせて、服に付いた土を払う。
「もう痛いのは勘弁だ……。そもそもソラ、式神のお前から見て、これで術式を鍛えられると思うか? 僕にはこれが生産性の欠片も見いだせない」
尋ねれば即座に否定されると思っていたが、意外にもソラは僕の言葉を受けて考え始めてしまった。
「えーと……こればかりはどうとも言えませんね。フィサさんが話していたとおり、花式は現代に蘇った術で、式神が記憶しているのは術の行使方法までなんです。そこから先は未知数というか……ただ、私もまだユウガさんの力は伸びると思いますし、フィサさんの話だと翔真さんの力は強かったそうですから、個人差はあると思います」
「フィサが言うことは信用していいのかわからないけどな」
そう言って立ち上がり、腰から足元にかけて付着した土をはたき落とした。
しかし、個人差があれば成長もする、というのはなんとなく理解できる。元々この術は植物の力を借りるものなので、シズクのように契約さえ出来ない人間も居る。その段階で、ゼロと一の個人差がある。
さらに。フィサに出会ってからもう二週間近く立つだろうか? その間、自分なりに術を行使してみたりしたが……改めて思い返すと、最初の頃より幾分か術の行使が早まってきたように思える。さっきもシズクの攻撃に合わせて術を使えそうだった。以前なら問答無用で殴り倒されて術を使えもしなかっただろう。
だが、それを踏まえてもわからないことは多々ある。
「術を上手く扱えるようになってきてる自覚はあるし、確かに花式を知った頃よりは良くなってるとは思う。だけど、どこまでこの力を使えるようになればいいんだ?」
「どこまで、ですか……。すみません、花式の上限がどこまでなのかわからない以上、明確な答えが出せません」
ソラが頭を下げて謝ったとおり、術がどの程度まで力を振るうことが出来るのかハッキリしていない。翔真さんのノートを見ても、やはり書かれている事項は術の使用方法や効力といったものだけ。概要から力量を知ることは出来なかった。
もう一つの疑問がある。それは、フィサがあのとき話した『式神の存在』について。術式を成り立たせるために存在すると思っていた式神だが、フィサの発言から察するに、別の存在理由があるのだろう。だが、それを見いだせないまま今日まで過ごしてきた。
つまりこの二週間という期間は、終わりの見えない個人的な修行に使うことしかできなかったということだ。それ以外はごく有り触れた日常を過ごしただけ。……進展は、皆無。
「ユーガ? どうかした?」
そういった考えを一人行っていると、動きを見せなかったためかシズクの呼びかけが聞こえた。顔を上げると、目の前では不思議そうに僕を見つめるシズクがいた。
……そんなシズクの表情は、日常的に見せる和やかで明るいもの。不安の欠片も見せない、いつも通りのシズクの姿である。
「どうかした? また考え事? ユーガの考え事は小難しすぎて嫌いなのよ」
「まぁ、確かに考え事だけど……もし、このまま僕の力が及ばなかったら、フィサに認められなかったら……そんなことを考えてた」
この二週間の進展の無さ。それは、僕の焦燥を掻き立てるには十分な時間だった。
それに、このまま僕の力が付かないままだったら、シズクは翔真さんの手がかりを掴むことなく日常を過ごすこととなる。それは、僕だって望んでいないことだった。僕だって、翔真さんが居る楽しい語らいを取り戻したい。
シズクは僕の答えに一瞬身を強張らせたものの、すぐにニヤリと意地悪に笑ってから、軽く僕の額を小突いた。
「そんなこと思うなら、さっさとレベルアップを目指せば良いんだよ。そりゃ、私だって時間が掛かるのは嫌だけど……でも、フィサ姉の意地悪をなんとかしないと、話が進まないんだもん」
……実は、そうではないのだ。僕は首を振ってそれを否定した。
「あまりお勧めはしない方法なら思いついている。だから、もしかしたらそっちの手段を採った方がいいのかもしれない」
「え……それって、何?」
「いや、そういう考えがあるってだけ。さっきも言ったとおり、フィサから聞き出すのが一番良い方法だと思う。僕の考えはあくまで可能性があるってだけだよ」
あまりこの案に興味を示されても困るので、僕はそう言ってうやむやにした。不満そうなシズクだったが、彼女には手段が他にもある、ということを覚えておいてほしい。
「……ユウガさんは、何を考えているんですか?」
僕らの様子に不安を感じたのだろうか、ソラの戸惑った声が静かに落ちた。
「たいしたことじゃない。ただ、僕は力が無くても使える花言葉が多いから、その中で使えるやつがあるって話だ。あぁ、フィサに危害を与えるつもりじゃないから安心しろ」
いくら真実を知る手段でも、翔真さんの式神を脅しては翔真さんに失礼だ。そうでなくても、フィサに攻撃するつもりは毛頭無い。
そこでフィサの名前を口にして、ふと思い返したそぶりを見せる。
「そういえば、あれからフィサに術式を見せたことがなかったな」
「え? あぁ、アロエとトルコギキョウを使ったときですよね?」
「あれからフィサに確認を取ってなかったし、そもそも翔真さんの力がどれくらいだったのかも僕らは聞いてない。……ゴールが見えなくて当然だな」
根本的にフィサが真実を話してくれないのではないか、そういう疑心があったため訊く気になれなかった。術が上手く扱えないので先を見るどころの話ではなく、そういった根本的な事を聞き逃していたようだ。フィサからいきなり提案されたことなので頭が回っていなかったのだろうか。
そうと分かれば善は急げ。僕はシズクに顔を向けて尋ねる。
「というわけなんだけど……シズク、今日はお見舞いに行く余裕がある?」
「ん、大丈夫。これからさっさとアパートの仕事終わらせればすぐに行ける」
これでフィサから話を伺えば、少なからず進展は見えてくるだろう。むしろ今までが無闇に先を目指しすぎただけだ。
お見舞いに行くならまた花を用意して……それと、フィサに見せるべき花言葉を考えておかなくてはならない。シズクを待っている間にそれを考えれば十分か。
「そういうわけだから、今日はこれからフィサに話を聞きに行こう。……だから、もう無意味な乱闘に巻き込むなよ? あんなの僕が痛いだけじゃないか」
「えー、良いじゃんもう一回くらいやったって! だって私突き飛ばされたんだよ? なんか悔しいじゃん!」
「ダメですよシズクさん! 次に殴られたら今度こそユウガさん死んじゃいます! お願いですからユウガさんを殺さないで!」
「……だから、涙目で訴えられるくらい弱いのか僕は?」
……そんなやりとりがあったものの、相手はシズクである。病院に向かうまでに結局三度くらい殺されそうになった。