彼は、裏切り者だった。
混沌に包まれようとする世界。その世界においての唯一の希望となる存在……勇者。
しかし……彼は、
「僕は……やっぱり、怖いんだよ……。どうして勇者は、戦わないといけないんだろうね」
希望となる彼は、世界の人々の期待を、裏切ろうとしていた。
そうなるべき運命を、彼は恐怖という感情だけで逃げようとする態度をとり続ける。それは、全ての人々からの憎悪さえ、受けることはわかっていた。
さらに、彼は勇者であるべくして生まれた彼は――弓を引いた。退魔の力を持つ剣を手にしようともせず、果敢に魔族と戦おうともしなかったのだ。
『お前は、我らの気持ちをどうしてくれるのだ!』
『剣を振るわない勇者など、聞いたことが無い。ならば、貴様は偽者だ!』
『……私たちを助けてくれないの……どうして! あなたは、希望なのに!』
それは、当然の言葉だった。彼一人に、世界が掛かっているといっても、過言ではないのだから……。
けれど、彼のその言動は……変わることなどなかった。浴びせられる罵声は、聞きなれてしまった。
……それは、魔王討伐という旅に出ても、変化の兆しさえ見えないまま――――
彼女の取った道は、誰が考えても正しいものだった。
盗賊という、善とは対を成す者。彼女は……その道を、自らの力で変えようとした。
「まぁ、そうは言ってもこんなの、アタシには向かないかもしんないけどね」
盗賊から商人へ。奪うものから与えるものへ。それは、まるで違った道だった。
けれど……誰もが、正しいと思える選択なのだろう。……そう、心の底から、願っていた。過去は返られないのなら、せめて今を変えていけばいい。制裁は、いずれ起こるであろうから……
けれど、選んだ道の先には、汚れた希望が交わっていた。
「面白いね、あんた。……つっても、アタシ以外はみんな面白いね」
過去を見捨てた彼女。……そこには、何があるのだろうか。
「裏切り者の仲間は裏切りものねぇ……いいよ、その考え方。悪かぁない」
裏切りの集団に入れば、彼女も裏切り者と呼ばれるのだろうか?
かつて、盗賊たちの仲間であったように……彼女も、裏切り者の汚名を受けていく――――
「どうして、魔物は私たちを殺そうとするのでしょう? 誰か、この謎を解けますか?」
賢者――神に選ばれた者とされる、絶対なる知を有する者。
彼も、その一人とされていた。世の中の理を知り、人々に教えを与える者。その絶対的な力とともに、彼は膨大な知力を持っていた。
……それは、本来ならば人々のために使われる力である。神に選ばれた人間として、それは当然のことなのだ。
「では、言い方を変えましょう。……魔物は、全てを壊そうとしている。なぜです? それは……私たち人間の存在が、許されないためでしょう」
それは、賢者とは思えない意思だった。
神と対を成す者たちとの調和どころではない、その考え方。彼は……悪魔に選ばれた、賢者なのだろうか?
「私は、全てを壊すべきだと考えます。たとえそれが……人であろうと、魔物であろうと」
彼は、神を裏切っていた。ただ、彼の選んだ道は……全てを破壊すればいい。
知ある者とは思えない存在は、やがて世界を裏切る勇者に加担し、破滅の力を撒き散らしていく――――
少女は、全てを放棄していた。
「別に。私一人遊んでたって、世界が変わるわけ無いでしょ? だったら、楽しんでるほうがずっとマシ~」
まだ十三歳という、あどけない少女だった。年齢も、裏切り者たちの中では最年少であって、世界を巡る旅にも着いて行けないとさえ、思えるはずなのに。
彼女は、いわゆる遊び人。自分に定められた事柄をこなそうともせず、ただ遊んでいるだけの、どうしようもない職業。……それは、彼女の年齢ならば、少々早すぎる決断ともいえるのだが……
「そこの岩壊したら崩れるよ。あとは、その騒動に紛れて適当に戦ってても勝てるよ、そいつらなら。じゃ、私はまたカードに集中っ!」
天才だった。そして、どんな状況であっても、動揺などという言葉が現れることの無い、過ぎた精神力の持ち主だった。
それも、普通に暮らしていれば到底たどり着けないほどの、優秀すぎた頭脳。出来すぎた能力。
彼女の力は……やはり、異常だった。その年齢ならば、遊び人などという世間からも否定されかねない職業にならずとも、いいはずなのに。
「……だから嫌なのよ。逃げて、当然だってわかるでしょ?」
それでも……彼女は、変わろうとしなかった。自分から、動こうとはしなかった。
……今でこそ、それは微笑ましい姿に写る。
けれど……少女の抱えた大罪が消えることは、二度とないのだから――――
それは、裏切り者たちの物語。
勇者が魔王を倒すという運命さえも抗いかねない、歪な物語。
「うるせぇな! だったら俺がどんな気持ちか考えたことあるのかよ! 俺の力で立ち向かえって? ふざけんな! ……俺だって、人間だぞ。力があるってだけで運命を決められた、ただ人間だって分かれよ!」
勇者が裏切る理由。商人が裏切り者になる理由。賢者が神に逆らう理由。そして――少女が、過去から逃避した、理由。
逃げられない運命だったから。……そこに、理由があったから。
「「ギガデイン!」」
――――そんな世界を、裏切り者たちが旅する物語。
ドラゴンクエストⅢの二次創作。
『ドラゴンクエストⅢ ~裏切りの勇者たち~』
執筆予定、なし!
……はい、さんざん長く語っておきながら、こんなオチです。
以前ルーラーさんのブログにてちょこっと書いたことがあるやつを物語にしたら、こんな感じなんだろうなぁと思って書いただけです。
……正直なところ、これめちゃくちゃ長編になる気がします。絶対、書き終えられる自信ありませんから。ただでさえ、今の創作物だけで手間取っているのに……。
ただ、やっぱりこれやるなら三人称ですので、どうであろうと僕では書けません。一人称が本質の人間ですしね。
……どなたか、書いてみたいという方がいらっしゃいましたらぜひご一報ください。