~1~
私たちは病院から逃げ延び、少し離れた場所に居た。
そこは、夜空も見え始めたこの時間帯ともなると使われることの少ない、近くの公園。そこのベンチに腰掛けて、私たちは何をするでもなく無意味な時間を過ごしていた。
……なんで、こんなことになったんだろう? 助けたいはずの四葉に助けられて……そもそも、ドッペルゲンガーを逆上させて。何がしたかったんだ。
私の決意をドッペルゲンガーに伝えること? そう、それ以外の意味はもたない。でも、結局はこんな惨事を招いてしまった。
……はぁ……まったく、ホントに……。
「面白い事になったねぇ」
「本当ですね……四葉に対して物凄く罪悪感がありますけど」
溜息を吐き出して、須山さんの言葉に頷いた。面白い、という表現はともかく、事態は大きく変わったといえる。それが良かろうと悪かろうと、今までになかった『情報』を手にすることもできた。
ドッペルゲンガーの語ってくれた、パンドラの過去も勿論そうだ。けれど、それ以外のもう一つの収穫。
私たちは、それぞれの決意をドッペルゲンガーに示した。その結果、ドッペルゲンガーは逆上した。……それが、本人が語る事の無かった、新たな謎だ。
「どうして、ドッペルゲンガーはたったそれだけの事に憤怒する必要があったのか。それには、相応の理由があるはずなんだよねぇ……」
考えこむように、須山さんは手にした不可解をまとめ、口にした。
問題はそこなんだ。私たちは、確かにドッペルゲンガーに対して挑発的な態度を取った。が、何も凶器を振り回すまでのことをやったつもりは、無い。ということは、そこに何らかの要因があるとしか考えられなかった。
つまり、私たちはそうさせるほどの『何か』をやったんだ。そうじゃないと、あの……人を挑発しているのかと思うような、飄々とした態度をとる奴が、怒ったりしない。むしろ、嘲笑って悪口のネタにするだろう。
けど……ドッペルゲンガーは、それをしなかった。自分を抑えきれないほどの何かを抱かなければ、そうはならないはずなのに。
「でも……どう考えます? 私たちがみんなを助ける、って言ったことくらいですよね。話したことがあるとしても」
須山さんに続いて、私も話したんだ。その結果、激怒させてしまった。つまり、私たちの語りに何らかの関係性があったと考えるのが妥当なんだけど……そんな戯言みたいなことを、本気にした?
しかし、須山さんは真面目な表情で頷いた。
「最初にドッペルゲンガーと会ったときもそうだっただろう? 俺が問題を片付けるって話したときも、普通じゃない反応だったからねぇ」
そういえばそうだ。あのときのドッペルゲンガーも、ただ嫌みで笑っていたという感じではなかった。確かに笑っていたけど、あれは、怒りに震えているかのようだった。
「じゃあ、やっぱり私たちの宣言に対して、怒っていた、ということですよね?」
「そうなるんだけどねぇ……。……でも、どうやって確認を取ればいいんだと思う? 病院に戻れば、ドッペルゲンガーに今度こそ殺されかねないよ。問題も、幾つか取り残されたままだしねぇ」
「……そうなんですよね……四葉にも兄さんにも会えないとなると、情報の取りようが無いですし……」
しかも、私たちが当初訊きだそうとしていた『四葉が選ばれた理由』『須山さんが生かされた理由』について、何も知る事はできなかった。
……状況は悪化しているのかもしれない。確かに、今までになかった『不幸』という問題を知ることも出来た。その出所と、正体について。ドッペルゲンガーの過去も、ある程度知れた。
だけど、その代償は病院向かうことが出来ないということ。……いいや、それだけじゃない。私たちは、ドッペルゲンガーに敵視されたと見て間違いは無いだろう。となれば……須山さんのとき同様、いつ殺しに来るかわからない。
「せめて、ドッペルゲンガーさえなんとかなればいいんですけど……」
私は溜息を吐いて、愚痴を零すように言った。
「『不幸』が何なのかわかったんです。あとは、決め手さえ揃えばもしかしたら……」
そんなことも口にしてみる。
と、私の言葉に須山さんは少しだけ驚いたように目を開いた。
「……それは、本当なのかい?」
「えぇ、たぶん。『不幸』が思想の一種みたいなものから発生した事象なら、『パンドラの青い鳥』……あ、違うか。パンドラに力を借りて、どうにか出来そうなんですよね」
もしかしたら、これは思い違いなのかもしれない。でも……可能性は、この話を聞くことでずっと大きくなった。
須山さんはまだ半信半疑らしいので、説明することにする。
「今までずっと気になっていたんですよ。どうして、いきなり兄さんと会えたのか。だって、兄さんが病院に搬送されるまでは、四葉の『不幸』で誰とも会えなかったんですよね? 病院でも、四葉はそれと同じ事をやっていたはずなんです。……でも、出会えました」
「あぁ……そういえばそうだったね。でも、それがどうパンドラと繋がるんだい?」
「それは……抽象的過ぎてイマイチ説明しづらいんですけど、四葉の『不幸』って、思いに置き換えてみると『会わせない』『会いたくない』みたいなことになると思うんですよね。で、そういう感情って、抱くものじゃなくて向けるものじゃないですか。敵意を向ける、とかいう表現もありますし。で、それをパンドラが打ち消してくれたから、私たちは兄さんに出会えた」
私の考えに、須山さんは納得した様子で頷いた。
「なるほどねぇ……。でも、どうしてそのときになって力が働いたのか、疑問に思うね」
「それですけど、もしすぐに兄さんと出会えたら、それこそ四葉の気持ちを踏みにじりますよ。だから、兄さんが限界を迎えて、さらに私たちが必死で捜索していたのを知っていたパンドラが、そのときになって願いを叶えてくれたんじゃないですか?」
または、私の考えに賛同してくれたか、だ。……どちらにせよ、ありえない出会いに必然があるのだとすれば、おそらくパンドラの力が働いたのだろう。
「……ちょっと、まってくれ」
説明を終えた私に、須山さんは呆然とした様子で呟いて、何かを考え始める。
須山さんの挙動は……そうだ、何かに気がついたような風だった。それも、何か大切なことに気付いた、致命的な何かを見出した。そんな、印象があった。
そして……。
「その……里亜ちゃんの口ぶりだとつまり、『パンドラの青い鳥』に意思はあるのかい?」
え……? そういわれて、私は頭の中が真っ白になるほどの衝撃を受けてしまった。
「……そういえば、そうだった」
それが、当たり前になっていたから。私はそれを失念していたんだろう。
兄さんからこの子を預かって、ずっと一緒にいたんだから。パンドラ本人であると知ってからも、それを当然の事として捉えていたんだ。
「仮にパンドラが全部の『不幸』を打ち消すんだったら、事件なんて起こっていません。ドッペルゲンガーだって、そんな強大な力を持ったものなら四葉に渡さなかったでしょう。だから、この子に出来る範囲で打ち消してくれるんだって……そう、思っていました。だから、パンドラは考えを持てるんだと……」
それに、意思があると感じていたのは、兄さんから預けられてずっと傍にいたから。神出鬼没だけど、いつも近くにいてくれたから。だから、なんとなくそう思ってしまっていたんだ。
「そういえば、そうだ。兄さんは『持っていれば』病気で死なないって言ったんだ……だったら、『私たちに向けられた』だけの『不幸』は、打ち消せるわけ無い……。だって、私が持っている『不幸』じゃ、ないんだから……」
だったら……兄さんとの再会は、確かにパンドラの力によるものだけど……もう一つ、あるんだ。
「もしかして……私が兄さんに向けた願いに、パンドラの力が上乗せされた? 私が見つけたいって考えていたから、それをパンドラが叶えてくれた?」
そう考えれば、納得がいく。四葉だって、姿を見せずに須山さんに『不幸』を与えるようなことをしたんだ。
そして、もしこの考えのとおりなら……さっき考えたような、『私に向けられた不幸』を打ち消したわけじゃないのかもしれない。
四葉が話してくれたとおり、兄さんは『会えない』という不幸を与えられていた。それを、パンドラが打ち消してくれたから、兄さんに出会えた。簡潔だけど、そう考える方が自然だ。
……四葉が、『パンドラの青い鳥』を所持していたにも関わらず、悲劇の最中にいたのは……それに、気付かなかったから? 災厄を起すのが彼女にとって当たり前になってしまっていたから、自分で抱え込むことしかできなかったから、ずっと絶望をばら撒いていた?
兄さんがずっと生きてこれた辺り、四葉も何かをやったんだと思うけど……みんなを救うことは、出来なかった。
「……まさか、こんな近くに答えがあったなんて……」
もしこの考えが正しいのなら、みんなを助けられる可能性は高まる。遠隔的に『不幸』の力を押さえ込めるのなら、私も、兄さんも、須山さんも、誰も『不幸』に殺されなくなる。
私が一人、思考に浸っていると――
「やっぱり、意思があると考えて間違いは無いんだね?」
須山さんの質問に、私は「えぇ」と答える。そうでなくとも、今まで一緒に居たのだから間違いは無い。
その答えに、須山さんはポツリと、零した。
「……そういうことだったのか……まったく、やってくれる」
「え……なんの話ですか?」
私が訊ねると、須山さんは肩を竦めた。
「ドッペルゲンガーのこと、だよ。……どうして俺がこの考えに到れなかったのか、忌々しく思うよ」
平然と、それを言い切る。けれど、その表情はどことなく自嘲めいたものを浮かべているみたいだった。
……一瞬、我を疑った。今まで謎として残されていたドッペルゲンガーに関わることが、須山さんにはわかったというのだから。
私が「何がわかったんですか?」と訊ねると、須山さんは嘆息しつつ、答えてくれた。
「パンドラと同じで意思を持っていて……さらに、ドッペルゲンガーは感情的だったってことだよ。俺と違って、ね」
――須山さんは、ドッペルゲンガーに関する気付きを話してくれた。
それは、『四葉を選んだ』『須山さんを殺さなかった』という謎までも打破して……いや、それだけじゃない。須山さんの推理一つで、事態が一転してしまいかねなかった。
……それが、私たちにとって一つの希望を見出してくれる事になる。それを知るのは、この問題に対する結論が出た頃だった。
~2~
公園の時計を確認してみると、もう時刻は夜八時を過ぎていた。
空を見上げれば満点の星が、透き通るような夜の景色に散りばめられている。青空と同じ、澄んだ色をしているはずなのに、その景色は全く違って見えるんだな。
まぁ、それ以上に問題があるわけだが。
「……帰り、どうやって帰ろうか……」
普段の私なら、間違いなくやらないような失態だった。こんな時間に、わざわざ通るようなバスなんて無い。ということは、必然的に両親に電話を掛けなければならなくなるわけで……。
「なんて言い訳すればいいのよ、こういうときって」
打開策があるわけでもなく、一人虚しく愚痴を零した。
とは言っても、こうする事を決めたのは私の意志なのだから、あれこれ文句を言うのは間違っているだろう。そう言い聞かせて、心の中で整理をつけた。
……そう、ここまでやって来たのだから引き返すわけにはいかない。グダグダ考えるよりも、少しでも解決の為に頭を働かせなければならないのだから。私の考えにミスが無いか、組み立てた方法は正しいのか。改善の余地はあるか。
――私が考えに浸っていたときだった。
ポケットに入れておいたケータイから、夜の景色に向けて着信音が鳴り響いた。
「誰よ、こんな時に……」
勉強を始めてすぐに呼び出しを喰らったような、言いようの無い間の悪さに嘆息しつつ、ケータイの画面を開いて相手を確認する。
デジタルな文字で、『落雪瑠子』という、友だちの名前が表示されていた。……さすが瑠子だ。こっちの事情なんてまるで気にしていない。
私は嘆息しつつも、通話ボタンを押し込んで話し掛けることにした。
「もしもし」
『あ、りーちゃん。今、何してた?』
「今、私の人生に関わる可能性がある、重要な考察をしてた」
『……え? えっと、なに?』
「ごめん、気にしないで」
さすがに、遠回しな皮肉は通用しなかった。そもそも、こちらの事情を知っていないのだから、瑠子にはさっぱり分からないだろう。
「それで、何か用?」
訊ねてみると、瑠子は急に明るい声で『あ、そうそう』と思い出したように言った。電話越しに、パッと笑顔を浮かべた瑠子の姿が居るような気がした。
『今、暇なら雑談しようとしただけ』
「ごめん、無理。あんまり時間かけたくないから遠慮しとくわ。じゃあ、また明日」
『えぇ!? ちょっとは話しに付き合ってよ!』
こちらが多忙というのに呼び止めたりするので、そう切り返してくるとは思っていた。心の中で、途絶えることが無いのではないかと思うほど、深い溜息を吐いた。
時計を再び確認。……須山さんは、もう少ししないと買い物から帰ってこないかな。
「はぁ……しょうがないわね」
がっくりと肩を落としながら――けど、心なしか悪くは思わなかった――答えると、瑠子は『やったー』と心底嬉しそうな声を出していた。
けど、すぐに声のトーンが下がった。小さな差異ではあったけど、でも、喜ばしい事では無い気がした。
『……ホントは、雑談っていうか、相談みたいなもの、かな?』
「へぇ、アンタにしては珍しいわね」
先日、瑠子の過去に触れるまでは彼女に悩みなんて無いとさえ思っていたほどだ。
『うん。えっと……あんまり、こういう時に話したい話題じゃないんだけどね。ほら、アタシのリストバンドの下、覚えてる?』
あぁ、だから私に電話してきたのか。「忘れるわけ無いでしょ」と、即答する。
今もまだ、思い出してしまう。瑠子の細い腕に刻まれた、無数の傷跡。痛々しくて、消えてくれない切り傷。頭の中に現れてほしくない光景。脳内でその絵が出てくるたび、頭を振ってでも消してしまいたくなる。
『で、そのことなんだけどね。えっと……ほら、今日、ツツジとユウノにもばれちゃってたでしょ? りーちゃんのときは仕方なかったし、アタシと同じだからって思っちゃってたけど……でも、二人って違うじゃん? 特にユウノ、すっごくショック受けてたもん』
「あぁ……そうだったね」
ツツジは謝るだけ謝った、といった印象だった。けど、ユウノだけは本当に申し訳無さそうで、いつもより口数も少なかったみたいだ。
いや、実際は二人とも各々で困惑している部分があったんだと思う。いくらツツジでも、こういうのは許容しきれないだろうし。
『それで……このままでいいのかなって、思うの。変に心配させちゃ、悪いし……』
なるほど、そういう話だったのか……。そうならそうと、雑談なんていわなければよかったのに。
……まったく。
「純粋だね、瑠子は」
『え?』
キョトンとした風に、瑠子は間の抜けた声を出した。私は苦笑する。
「普通、そういうのって傷晒した人間の方が辛いはずだよ? でも、そうしないで他人を気遣えるのは、凄いと思う」
無邪気だから、なのかな。敵意を抱こうとしないから、誰にも優しくできる。それが、瑠子のいいところだ。
何の言葉も返ってこないので、私は空を見上げながら、一つの質問をすることにした。
「ねぇ、瑠子。アンタ、青空と夜空、どっちの方が好き?」
『青空と夜空? だったら、青空かな。綺麗だし、晴れてるって感じだもん』
なんとも瑠子らしい回答だった。まさに、太陽のような少女だ。
「私は、夜空の方が好き。真っ暗で何も見えないけど、静かで、たくさんの星を包んでいるから」
昔からそうだ。幼少の頃、兄さんと四葉に無理いって星を眺めに行ったことだってあったくらいだから。
……その頃から私、あの二人を引っ張ってきたのかもしれないな。挙句、その頃の私は何にも考えてなかったから、両親からこっ酷く叱られた記憶がある。
まぁ、それはともかくとして。
「でも、青空でも夜空でも、結局は空でしょ? 今の瑠子だってそう。今現在の瑠子と、昔の瑠子が居るってだけ。瑠子は瑠子で、変わりないってこと。だから、そんなに気にしなくても、自然となんとかなると思うよ?」
もし、どうにもならないようなら私も手を貸すしね。そう言って、目の前に居ない相手に笑いかける。
すると瑠子、彼女らしくなくおどおどとした雰囲気で。
『えと……じゃあ、気にしなくていいのかな?』
「多分ね。それに、アンタが変に気にしたら、ユウノも余計に困るよ。いつもある太陽が、突然歪んだら誰だって驚くでしょ? そういうこと」
『なら、いっかな……。うん、ちょっとすっきりした。ありがと、りーちゃん』
悩みを打ち明けたからこそ、瑠子は素直にそう言う事が出来たんだろう。爛々とした声音で、ありがとうって。
でもね、瑠子。
「ありがとうって言いたいのは、こっちの方かな」
瑠子が私の為にこんなことをしてくれたから、こうして問題に対面する事ができているんだ。だから、私の方がずっと助けられている。
私がなんでそう言ったのか分からなかったらしく、瑠子は『へ?』と、彼女らしい疑問符を浮かべていた。
「じゃあ、もういいね?」
『うん、相談に乗ってくれてありがと。じゃね、りーちゃん。また明日』
「おやすみ、瑠子。何事も無かったら、また明日」
『――え? うん……おやすみ』
不思議そうにした声音が聞えたけれど、私は何かを言われる前に通話を絶った。
どうせこれから病院に向かうのだから、そのままケータイの電源を落とす。
「電話はもう終わったのかい?」
後ろから声をかけられて、私は振り返って須山さんの方を向いた。
「あ、買い物ありがとうございました。電話はもう終わりましたよ?」
私は須山さんに微笑みかけた。
須山さんは、私たちがこれから病院に乗り込む際、必要となる道具を買ってきてもらった。本当は私が行こうと思っていたんだけど、須山さんの厚意に甘えることになった。
「……里亜ちゃん、もう病院に行っても大丈夫なのかい?」
訊ねられ、私は「勿論ですよ」と苦笑して返した。
「ここで引き返すわけに行きません。これ以上、苦しんでるのを放っておくわけにもいきませんし、友人にも悪いですから。決意は済んでいます」
ここまで来れたのは、瑠子のおかげもある。だから、何がなんでもみんなを助けたいんだ。……今日、それを終わらせてやる。
そして、私は須山さんに意地悪っぽく微笑みかけながら訊ねてやった。
「そういう須山さんこそ、買い物なんてしてて大丈夫だったんですか?」
すると須山さん、困ったように笑いながら。
「うーん……どうだろうねぇ? 俺の考え、結局は感情論ばかりな気がしないでもないからねぇ……でもまぁ、覚悟はとっくに出来ているよ」
それもそうか。実際、須山さんの方が『不幸』を持っているだけ状況は悪いんだ。ここまで『不幸』が襲い掛からなかっただけ、奇跡と呼んでもいいくらいだ。
「じゃあ、行きますか?」
「そうだねぇ……ちゃちゃっと終わらせてこようか」
まるで、ゲームでもやりに行くかのように軽いノリを交わした。
けど、内心では不安要素に満たされているといって過言ではない。なんせ、私たちは全ての問題を片付けようとしているのだから。
すなわち……ドッペルゲンガーの無力化と、四葉が作り出した悲劇的な状況の打破だ。それを、今からやろうとしている。つい数時間前に、ドッペルゲンガーによって病院を追い出されたばかりだというのに。
だけど、後戻りするつもりは無かった。
ゲームのように、タイムリミットがあるわけじゃない。
でも、いつまでも解決しなくていいなんてこと、ない。
だからもう、こんな悲しみは終わらせる。
それが、私の決意と須山さんの覚悟だから。
私たちが病院の前に立つまでに、時間は掛からなかった。